企業分析:SES事業が成功するカギは?

マーケティング支援をさせていただいている採用コンサルティング企業様から「SES (System Engineering Service) 事業を行うクライアント様がマーケティング戦略に課題を持っているので相談にのって欲しい」と依頼を受けました。

コロナウイルスの影響でビジネス環境が変わった関係で、今後の方向性を模索しているとのことでした。せっかくの機会なのでMBA流の企業分析をおこない、その事業が目指すべき方向性をアドバイスさせていただきました。

というわけで、今日はSES事業成功のカギについて考えてみたいと思います。なお、分析した企業は実際に相談を受けた企業様ではなく、同業にあたる上場企業を分析しました。他社の動きから自社がとるべき戦略を考察する提案をしました。

分析に入る前に、SESを含む人材派遣型ビジネスについて簡単に解説します。

人材派遣型ビジネスとは?

人材派遣型サービスは企業に労働力を提供するサービスになり、一般的には人材派遣業やSES (System Engineering Service) があります。ここではそれらを人材派遣型ビジネスと呼ぶことにします。

人材派遣業とSESの違いは指揮系統の違いになります。人材派遣業は指揮するのは派遣先のクライアント企業になり、SESは雇用者(つまり所属先企業)になります。

ではSESの事業構造はどのようになっているのでしょうか?早速みてみましょう。対象企業に選んだのはITインフラ・保守のSES事業で上場しているセラク社で、有価証券報告書と決算資料を使って分析を行います。今回はビジネスの構造から成功要因を把握するため、以下の論点で分析を進めます。

  • セラク社は成長しているか?
  • セラク社の事業は付加価値を生んでいるか?
  • どのセグメントが成功しているか?
  • セラク社成功のカギは?

セラク社 企業分析

セラク社は成長しているか?

まずは売上、コスト構造を分析します。セラク社 過去3年のCAGR(平均売上成長率)は11%となっており、急成長とはいえませんが堅実に売上が伸びています。2019年度には売上が100億円の大台を突破しました。

コスト構造を見ると、売上原価は75%、販管費が17-18%、営業利益は6-7%でした。労働力を提供するサービスなので企業に派遣する技術者の人件費が原価ということですね。収益の源泉である人材のコストを削減することはおそらく難しいため、同じ人材派遣型のビジネスを続ける限り、営業利益率が大幅に改善することは難しいかもしれません。

また売上の増加とともに技術者の数が増えています。平均成長率は17.5%。派遣型のビジネスは契約企業数と派遣スタッフ数が増えると売上があがるビジネスモデルです。逆にいうとその2つが増えないとビジネスの拡大は難しいということになります。

セラク社の事業は付加価値を生んでいるか?

次に事業の付加価値を見ていきます。付加価値は「技術者一人あたりの売上」としました。

3年という時間軸において、セラク社は技術者一人あたりの売上がアップしています。よって事業の付加価値は上がっていると考えていいでしょう。ここで大事なのが「なぜ上がっているのか?」を考えることです。それを解明するために「どこが上がっているのか?」を詳しく見てみます。

どのセグメントが成長しているか?

セラク社のセグメント別売上をみてみると、IT保守運営を担うSI事業が17%伸びているのに対し、DX(デジタルトランスフォーメーション)や機械設計エンジニアリングも大きく伸びています。まだ全体に占める売上金額は大きくないものの、2018年対比で144%、575%と驚異的に伸びています。SI事業の17%成長が小さく見えてしまいますが、売上20%以上の成長は急成長と定義すると、こちらの伸びも大きいと考えて良いでしょう。

ここからもう少しセグメント別売上を深く分析します。

↑決算説明資料によると、SI事業ではITインフラ保守に加えてウェブマーケ、スマートソリューションでも売上が上がり、かつDXセグメントではRPA、サイバーセキュリティ、AWS技術者など新領域で成果が出ていることがわかります。このことからセラク社の成長には以下の仮説があるのではないかと考えられます。

セラク社 SES事業における仮説
  • SI事業が17%成長。既存顧客へITインフラ以外のクロスセル機会があるのでは?
  • 成長分野への早期参入により将来の成長基盤創造に着手しているのでは?
    • 顧客もDXを求めており、ここが付加価値アップにつながっているのでは?
  • 未経験者教育→IT技術者育成のサイクルを早く回すことが成長ドライバなのでは?
    • 企業が求める新分野に人材を投入できているということでは?
    • 自社で技術者を育成する能力が十分にあるということでは?

SES事業が成功するカギは?

経済産業省の調査「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、日本のIT人材不足は深刻な問題であり、この市場トレンドがSES事業にとって追い風となっていることがわかります。

以上の分析よりSES事業では、

  • 技術者が育ち適材適所できると事業が成長。技術者の採用戦略は経営そのもの
  • DX(デジタルトランスフォーメーション)人材ニーズはこれからも伸びる。自社で技術者育成できると事業は成長する

という点が成功のカギだと考えます。

技術者を強みにした他ビジネスの成功事例

補足として、派遣型ではない方法で成功を収めるビジネスの事例を紹介します。SalesforceやAWSのソリューションサービスを事業とするテラスカイ 社です。

この企業は、Salesforce社認定技術者数日本一という実績を自社の強みとしています。優秀な技術者からのサービスを求める企業のニーズを捉えるいい例だと思います。

IT・インターネットビジネスは技術力が成功のカギなので、優秀な技術者が働きたくなるような企業文化を作っていくことが大事だといえそうです。関連するビジネスをされている経営者のみなさんの参考になれば嬉しいです。